これが青春。これが音楽。

恩田陸『蜜蜂と遠雷

普段は文庫本ばかりなので、ハードカバーの本はちょっと緊張する。そして文庫にはない装幀の意匠にテンションが上がる。そんなわけで、今回のイラストは装幀について。絵日記の趣旨からは逸脱するが……。
この『蜜蜂と遠雷』はカバーと本体の印象が全く違う。そこにある意味に思いを巡らせずにはいられない。


閑話休題。本編はとあるピアノコンクールに関わる人々の物語だ。そして、それは主役たるコンテスタント(という言葉をこの本で初めて知った。受験者のことらしい。)のものに限らない。審査員、記者、調律師、受験者の家族。順々に光が当てられるその全員が、各々の人生を生きていると感じられる。
そこは主題ではないのかもしれないが、たくさんの人が関わって成立しているピアノコンクール、それだけの人を惹きつけるピアノという存在が、とても不思議なもののように感じられた。

そしてコンクールの中心にいるコンテスタント達は、他者の演奏に触れ、自らも舞台に立ち、変化を遂げていく。熱い展開だ。帯にも「青春群像小説」とあるけれど、「こういうことか」と納得する。特に「元天才少女」栄伝亜夜の復活劇は想像の上を行く。
ただし現実にピアノに関わっている人にとっては、あり得ない点が目につくとのこと。知らないからこそ楽しめている面もあるのかもしれない。

直木賞・本屋大賞を同時受賞したこの本。もう話題が一巡した後に(しかも次の直木賞が発表された後に)読むというのも少々間が悪いかもしれないが、良いものはやはり良いものだ。分厚い上に二段組みなのに、読み終えた時には「もう終わりか!」と、物足りなさすら感じたほどだった。

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